やさしい恋のはじめかた
それからさらに一週間、私はとうとう我慢できずに桜汰くんが勤める美容室の扉を開けていた。
雪乃には「2〜3ヶ月くらいは間隔を空けな」と言われていたけれど、どん底まで落ちている今ならいくら雪乃でも許してくれる気がする。
私にとっては渾身だった。
だけど結果は惨敗。
誰が見ても堂前さんの企画が一番だった。
そんな部署内コンペが行われた今日は、どうしても桜汰くんに髪を切ってもらいたかったのだ。
……次に向けて頑張る英気を養うために。
「こんばんわ。二週間ぶり、桜汰くん」
「おー、里歩子、二週間ぶり」
ニッと笑った桜汰くんに私も笑顔を返し、営業後の誰もいない店内を彼のところまで進む。
桜汰くんはすごく仕事熱心で、営業後も決まって一人残ってその腕を磨いているので、アポなしで訪ねていってもだいたい会える。
たまに残っていないときもあるけれど、そんなときは他チェーン店の応援に行っていたり、コンテストに出場していたりするので、そもそもが勝手に私が押しかけているだけだから、出鼻を挫かれた気分になることもない。
「今日はどうした?」
「あーうん、化粧品メーカーから口紅のCMの依頼が来てて、今日が部署内コンペの日だったんだけど、いつもの通り惨敗でね。また頑張れるようにちょっと切ってもらいたくて」
いつもの指定席、通りに面した窓際の席に通された私はカットクロスに腕を通しながら言う。