やさしい恋のはじめかた
ここ何年もいい報告が出来ていないことが心苦しいけど、桜汰くんには何でも話せてしまうから、変に格好つけることもなくてその分楽だ。
「そっか。次頑張れよ」と私の頭に優しくポンと手を置く桜汰くんに「うん」と返事をすると、さっそく鏡の中の自分と向き合う。
鏡の中の私は、雪乃の言う通りあまり血色が良くなく、目の下にはクマ、口角は下がり、肌のハリツヤも最悪で、全体的にやつれていた。
*
「ちょっと目つぶって。前髪切るから」
「ん」
「揃える感じでいいの?」
「うん」
全体のカットが終わると、最後は前髪だった。
桜汰くんに言われるまま目をつぶると、耳元でショキンという音とともに切ったばかりの前髪がはらりと落ちていく気配がした。
その髪が多少顔に付いてしまうのは仕方ない。
前髪にハサミを入れるたび、桜汰くんは丁寧にそれを指で払いながら毛先を揃えていく。
私の今のヘアスタイルはショートボブだ。
就職したての頃は肩甲骨の下あたりまでのロングヘアだったけれど、仕事漬けのこの7年の間でずいぶん短くなってしまった。
だけどショートカットは手入れの時間が短くて済むし、ご飯のときにいちいち一纏めにする手間も省け、何より頭が軽く、気に入っている。
冬場は首がスースーして多少の不便さを感じることもあるものの、そんなものはマフラーでいくらでも対処できるし、一定の期間だけなので特別嫌だと思ったこともなかった。