やさしい恋のはじめかた
 



それから二週間。

桜汰くんに髪を切ってもらって心機一転、堂前さんのサポートに精を出してせっせと働いていたある日のこと、午後の業務に取り掛かっていると、珍しいことに人事部長がやってきた。

人事部長の上谷さんは社内でもとても発言力のある人で、その威厳あるオーラは筋肉質のがっしりとした体型や凛々しい眉などからありありと見て取れ、さながら社長のようだ。

--そしてこの人は、自分の娘と大海をずっとお見合いさせたがっていたりする。


いきなりの上谷さんの登場に、そんな人がどうしてここに?と部署は俄かに浮き足立ち、上谷さんをチラチラ眺めたり隣の席の人と驚いた顔を付き合わせたり、業務の手が止まってしまいながら皆めいめいにリアクションを取る。

私ももちろんその中の一人で、真っ直ぐに大海のデスクに向かっていく上谷さんの姿を遠巻きに眺めながら、内心とても焦ってしまった。


だって、ここまで来たら、そういうことにしか思えない。上谷さんはもともと大海に目をかけていて、自分の娘をあげてもいいと思っている。

人事部長直々のお出ましということは、つまりお見合いの打診をしに来たのだろう。

それを決定づけるように、上谷さんの後ろには明らかに娘さんと思われる清楚なワンピースに身を包んだ可憐な女性がトコトコと後を追っていて、ちょっと可哀相だと思えるくらい大海を意識していて、歩き方もぎこちなかった。
 
< 26 / 102 >

この作品をシェア

pagetop