やさしい恋のはじめかた
「やあ河野くん、仕事中に悪いね。凛子も私の後ろに隠れていないで挨拶をしなさい」
「……は、初めまして、上谷凛子と申します」
「初めまして、河野です」
大海のデスクの前に立った上谷さんは、立ち上がって出迎えた大海にフランクな挨拶をし、次いで自分の後ろに隠れるようにして立っている凛子さんという娘さんにも挨拶を促した。
上谷さんや凛子さんの訪問を予め知っていたのか、大海は特に動揺することもなく挨拶をし、父親である上谷さんの後ろからおずおずと前に出た凛子さんにも、柔らかな笑顔を向ける。
たったそれだけで頬をみるみる赤く染め、恥ずかしさのあまりモジモジしながら俯いてしまう凛子さんの、なんと可愛らしいことだろう。
CMの大ファンだから会いたいとか、父親のコネでお見合いを強行しようとしているとか、全然そんな風に見えなくて、むしろ純粋に“河野大海”という人間そのものに恋をしている。
こんな娘の様子を間近で見ていたら、なんとかして会わせてやりたいという上谷さんの親心も大いに頷ける、というものだった。
場所を変えるのだろう、三人で談笑しながら部署を出て行く凛子さんの後ろ姿は来たときより幾分ハツラツとしていて、やっぱり可憐だった。
その日の夜。
久しぶりに大海のほうから『会いたい』と連絡をもらった私は、デートのときによく行っていた和風レストランで彼と待ち合わせた。