やさしい恋のはじめかた
日本酒が届き、そのついでに適当に料理を注文すると、店員さんが去ったのを確認した大海は困ったような笑顔で私を見つめ、社内での噂が本当だったことを自らの口で肯定した。
日中に部長と凛子さんがわざわざ大海に会いに来た場面を私もしっかり目撃しているから、大海の口から言われなくても分かっていたけど、やっぱり面と向かって本人の口から言われるとそれはそれでショックというか衝撃だ。
会社中に噂が広まる前にどうして真っ先に私に話してくれなかったんだろう、なんて。
大海に釣り合うだけの実力がないから今まで話してもらえなかったくせに、心の中では当然のように思ってしまう自分が情けない。
それでも私は「部長には驚いたよね」と動揺を悟られないように注意して相槌を打ちながら、「そうなんだよ、さすがに参ったわ……」と苦笑い顔で愚痴をこぼす大海に笑顔を向ける。
日本酒は好きなはずなのに、味がしない。
ちっとも気持ちいい酔いが回ってこない。
……でもそれも、私に実力がないせい。
次は、次こそは、プレゼンで勝たなきゃ。
「--で、今日里歩子に来てもらったのは、形式上だけでも見合いに応じていいか、って相談したかったからなんだけど、どう思う?」
「え?」
「あそこまで強硬手段に出られたら、正直言うとさすがに断り続けられなくなってきててさ。一回会ったら部長も落ち着くと思うんだよ。見合いの席で酒でも飲んで醜態晒して、凛子さんの“河野大海”のイメージをぶち壊そうかと」