やさしい恋のはじめかた
今は誰かに甘えたくて、縋りたくて。
私の状況や心の中を桜汰くんが的確に言い当てたりなんかするから、ずっと長い間気付いていないふりをしていた感情が堰を切って溢れる。
「……大海と釣り合わなきゃって頑張れば頑張るほど空回りして、それでもなんとか、桜汰くんに髪を切ってもらうことでバランスを取ってきたけど、本当は私だって分かってたよ……もう限界なんだって。もう、何をどう頑張ったらいいか……全然分かんなくなっちゃった……」
嗚咽混じりに吐き出した、ずっと胸にしまい込んで見て見ぬふりをしてきた本音は、言ってみれば簡単で、でもだからこそ、私をがんじがらめに縛りつけていた言葉のように思えた。
何をどう頑張ったらいいか分からないからこそ苦しくて、それでもどうにかして自分を奮い立たせ、懸命にそこから抜け出そうとして。
だけど、もがけばもがくほど、頑張れば頑張るほど益々身動きが取れなくなっていって、結局もっと負のループに嵌まっていく。
そんな、まるで蜘蛛の巣か蟻地獄に捕らわれていたような日々の中で、唯一の救いだったのはきっと、桜汰くんの存在だったように思う。
「苦しいよ、桜汰くん……。助けて……」
心が悲鳴を上げる。
苦しい、辛い、助けて欲しい、と。
恐る恐る桜汰くんの背中に腕を回し、弱々しくシャツを掴むと、桜汰くんが私を抱き締める腕に力が入り、むせ返るほど強く抱きしめられた。