やさしい恋のはじめかた
「……誰でもいい。今は何も考えないで泣いていいから。利用してるとか、罪悪感とか感じなくていいから、ただ思いっきり泣けばいい。里歩子のことを責める奴なんて誰もいない」
「あ……ありがとう……」
「自分はよく頑張ったって、そう思えばいい」
「……うん」
私の全部を赦すように言い聞かせながら、耳元でそう囁く桜汰くんの声が微かに震えているように聞こえたのは、気のせいだろうか。
何度も頷きながら桜汰くんのシャツを掴む手に力を入れ、今夜だけ、今だけだからと、包み込むような優しさに縋って甘えさせてもらう。
ごめん、桜汰くん。
それから、ありがとう。
こんな私に、ありがとう。
静かな店内に私のむせび泣く声が、まるで断罪のようにただ響いていた。