やさしい恋のはじめかた
「私、もうずいぶん大海と話をしてないなって思って。……ううん、そうじゃない。大海も私ともうずいぶん話してないよね。噂のことはどうだっていいの。もっと話さなきゃ、って」
言うと、大海は少しだけ目を瞠った。
だけどすぐにふっと口元を緩めると「そうだったな」と言ってほんの少し口角を持ち上げる。
「里歩子は言わなくても分かってくれてるって思って、ずっと甘えてたけど、そんなわけないよな。忙しいことは理由にならない」
「そうだね。私も大海が忙しそうなことを理由にしてた。私のことで煩わせたくなくて」
そう言いながら私も少し笑い返して、手近にあった椅子を引いてそこに腰掛ける。
大海も近くの椅子に腰掛けると、私たちの距離は、さっきよりずいぶん近づいた。
「それで、話って?」
そう尋ねられた私は、うん、と頷き、膝の上の両手を握りしめながら大海の目を見つめた。
こんなことを言ったら大海はなんて思うだろう。
そう思わないわけはなかったし、きっとどんなに言葉を選んだとしても結局は傷つけることにしかならないことも、十分わかっている。
それでも、言わないと。
ちゃんと本音でぶつかり合わないと。
自分の気持ちをうやむやにしたまま関係を続けていくなんて、もう私には無理だから。
「……私、たぶん、ずっと浮気してる」
覚悟を決めて、そう話を切り出した。