やさしい恋のはじめかた
「なあ、里歩子。俺たち、ちょっと距離を置こうか。こうして本音を言い合ったからこそ、お互いに自分と向き合う時間が必要なんだと思う」
「……そうだね。それがいいと私も思う」
その大海の提案に結果的に頷いたのは、本心からなる私の意思だった。
大海が言ったとおり、こうして本音を言い合った今だからこそ、私たちはいったん離れるべきで、その間に自分自身としっかり向き合うことが今の私たちには必要なんだと思う。
だって、このまま関係を続けていたって、きっとそれは形だけだ。
お互いにそれはわかっているし、大海にも私にも、自分自身のほかに向き合わなきゃならないものがある。
それに、なにより一番は、私たち自身が、今は離れておくべきだと本能的に感じ取っている。
「わかった。じゃあ、そうしよう。里歩子の本音が聞けてよかった」
「うん、私も」
そうして私たちは、夜のオフィスをあとにした。
並んで会社を出ると、地上に散りばめられた人工的な光の中でも、かろうじて小さな星の瞬きを目にすることができた。
それは、3年前のあの日のような、小さな小さな星の光。
「じゃあ、週明け、会社で」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
交わした言葉は、それだけ。
背を向け合うと同時、私たちはそれぞれの住む部屋へと歩き出した。