やさしい恋のはじめかた
 
自分を切り落とし続けるのは、もうやめたいんだ。

そう言うと、背中から「そう」と優しい相づちが返ってきて、それだけで涙がにじみそうになる。

それをぐっとこらえて雪乃に新しい缶ビールを渡すと、彼女は酔いはじめてほんのりと上気した頬を持ち上げて笑い、ありがとうと言う。


「いや、これ、雪乃が買ってきたやつだから」

「マジで? じゃあ、お礼いらなかったじゃん。里歩子って案外ケチだよね」

「そこはほら、持ってきてもらったお礼でいいじゃん」

「べつに頼んでないしー」


なんていう、ちょっと笑える会話を挟みつつ、私も雪乃の正面に戻り、缶ビールの残りに口をつける。

長い話になったので、もうすっかり生ぬるくなってしまっていたそれは、口の中いっぱいに苦みを残して喉の奥へと落ちていく。

でも今は、その若干美味しくない感じがちょうどいい。


「あのね、雪乃。今までありがとね。それから、ずっとごめん」


以前から散々「自傷行為だから」と忠告し続けてきた雪乃には、髪を伸ばそうと思うという今の話は、やっとかという心境だろうし、気持ちの変化だろう。

けれど私には、自覚こそあったものの、そうしなければ、とてもじゃないけど自分を保っていられなかった。

散々忠告してくれたことについてのお礼をまず伝えたかったのと、散々突っぱね続けてきた謝罪の気持ちも、同時に伝えたかった。
 
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