やさしい恋のはじめかた
「そんなの、里歩子が自分で一番わかってたことじゃん。私はただのお節介。里歩子自身にもどうにもできなかったことでお礼を言われたり謝られたりしても、なんか微妙に嬉しくないよね」
けれど雪乃は、そう言ってからからと声を立てて笑う。
まだ3本目に口をつけたばかりなのに、もう酔っぱらっちゃったんだろうか、私よりだいぶ飲める雪乃にしては珍しいな。
若干、出来上がっているときのような笑い声に、一瞬、そんな思考が頭を駆ける。
でもそれは、ただの私の思い違いだった。
雪乃の瞳がみるみるうちに潤んでいき、とうとうこらえきれなくなって落ちた一粒が引き金になったかのように、あとからあとから涙がぽろぽろとこぼれていく。
「桜汰くんや河野主任にも言われたことをまた言うけど、私も里歩子はよく頑張ったと思う!」
「え?」
「主任がどうしてつき合ってることを秘密にし続けてきたのかを聞かなかった里歩子にも、悪いところはあったと思う。けど、言わなかった主任も、私は悪かったと思う。主任とつき合う前から桜汰くんと関りがあったのは、もうしょうがないとしても、そんな中で、たとえ頑張るベクトルが違ったとしても、ずっと頑張り続けてきた里歩子は、やっぱりすごいと思うんだよ。だから里歩子は、私にお礼を言う必要はないし、謝る必要なんて、もっとないっ!」
「雪乃……」
「もう! 里歩子はほんっとバカなんだから! どうしてこんなになるまで短くしちゃったのよっ。バカバカ、大バカっ……!」