やさしい恋のはじめかた
 
「……ごめっ、雪乃。ありがと、ありがとう……」


しまいには雪乃のほうが大泣きしてしまうという結末に、けれどそれだけ彼女の思いの大きさを知り、私の目からも堰を切ったように涙がこぼれはじめる。

本当に私は、どれだけ雪乃に心配をかけさせてしまっていたんだろう。

どれだけバカなことを繰り返していたんだろう。

私のためにこんなにも泣いてくれる雪乃の存在がずっとあったのに、それでも髪を切り続ける理由なんて、本当は最初からなかった。

本当に、どこにもなかったんだ……。


「里歩子は頑張り屋さんだね。私なら、もうとっくに音を上げてたよ。広告の世界は、表から見たら華やかで憧れる。でも、いざ中に入って裏を知ると、不規則だし接待も多いし、自分の時間なんてない。里歩子がいる部署なら、なおさらだよ。逆を言うと、よく髪を切るだけで済んでたよね」

「うん、そうかもしれないね」


涙目でこちらを見る雪乃に、笑って頷く。

脳みそがカラカラに干からびるまでアイディアを絞る毎日。

部署内での競争率も高くて、どれだけ渾身のものを出しても容赦なくボツになる。

そしてまた干からびるまでアイディアを絞り、今度こそ、今度こそと自分にプレッシャーと期待をかける。

残業なんて当たり前で、そのほとんどがサービス、加えて平日でも平気で接待が入る。

雪乃の言うとおり、よく髪を切るだけで済んでいたと言えるかもしれない。
 
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