やさしい恋のはじめかた
 
ありがとう。

しっかりと頷き、お礼を言うと、雪乃は「べつに頼んでないしー」とまた軽口をきいてからからと笑う。

そして、この話はもうおしまい、というようにテーブルいっぱいに広げたおつまみに手を伸ばし、それを美味しそうに食べはじめた。


うん、そうだよね。

雪乃の言葉をもう一度頭の中で繰り返しながら思う。

これから私が出す答えは、自分なりに一生懸命考えたもの、精いっぱい考えて出したもの。

それを最初からわかってくれている雪乃も、大海や桜汰くんだって、きっと笑ってくれる、笑って『わかった』『うん』って言ってくれる。

そう思うと、いろいろ前向きに物事を捉えられるような気がしてきて、心なしか、すっと心が軽くなったような心地がした。


そういえば、思い込むこともときには大事だよと、いつか堂前さんが言っていたような気がする。

自分に都合のいいように思い込むことは、けして悪いことじゃないと。

重く考えすぎて身動きが取れなくなるくらいなら、いっそ逆の方向に思い込めば、周りは案外なんとも思っていないことがわかったり、本当の自分の気持ちに正直になれたりする、視界が開けるって。


それは仕事に対してのアドバイスだったけれど、もしかしたら、いろんなことに応用できるかもしれない。

一回、全部クリアにして、その中で見えてきたものが、きっと私の本当の気持ちなんだろう。
 
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