やさしい恋のはじめかた
考えて考えて、そう思い込むことに決めたら、今まで悩んでいたことや卑屈になっていたことから急に解放されて、とても気が楽になれた。
未練がないって言ったら、嘘になる。
もう一度くらいはプレゼンで勝ちたかったし、稲塚くんにも先輩らしいところを見せて汚名返上したかった。
堂前さんにだって、いつかは「谷本さんすごいね、完全に負けたよ」なんて言われてみたかったし、大海とだって堂々と肩を並べて仕事がしたかった。
でも。
「よく考えた結果がこれです。正直に言うと未練はたっぷりありますけど、部署を新設するにあたって一番に名前が挙がったのが私なら、それだけ私を買って頂いているってことですから。喜んでそっちに行かせて頂きたいと思っています」
「……里歩子」
「大丈夫。きっとこっちのほうが、私らしい仕事ができると思う」
胸を張って、そう言った。
すると大海は、私とは対照的に曖昧な笑みをこぼし、じっとこちらを見つめた。
きっと、無理しているんじゃないかと心配なんだろう。
急な話だったし、考え方によっては左遷……つまり、能力が低いと判断されて違う部署に異動させられようとしている、と考えることもできる。
でもこれは、誰に言われるでもなく私自身が自分の気持ちに正直に向き合って決めたことだから。
たとえ大海が止めても、私はそっちに行く。