やさしい恋のはじめかた
だから私は、この選択は正しいんだと、そう思い込むことに決めた。
新しい部署で新しい自分をどんどん開拓して、そうしたらいつか、自分に自信が持てるようになるかもしれない――ううん、自分に自信がつくと信じて。
きっとこれは転機、人生の変わり目。
せっかく自分を変えるチャンスが巡ってきたのだから、怖がってばかりいないで手を伸ばそうと思った。
「……わかった。里歩子がそこまで言うなら、異動の話はそれでいいとしよう。そういえば里歩子は、自分の手が空いてるときは俺たちのサポートをしてたからな。勝手ならわかりすぎるくらいにわかってる。今までどおりのサポート、期待してる」
すると、どうやら気持ちが伝わったらしく、ふうと息を吐いた大海は根負けしたようにそう言って眉尻を下げた。
その顔は上司としても恋人としてもどこはかとなく寂しそうで、見ていて胸が痛くなる。
けれど、そんな中にも、変わりたいという私の思いを汲んで背中を押そうとしてくれている部分があって、そういう点でも大海は文句なく最高の上司であり、恋人だった。
「部長への返事は私からしておきます」
「ああ」
そうして、上司と部下としての仕事の話は終わる。
でも、恋人としてのほうの気持ちの整理はまだついていないというのが実際のところで。
社内では相変わらず上谷部長の娘さんの凛子さんとの噂話が絶えないし、私のほうも桜汰くんからの告白にどう返事をしようかと、まだまだ考えも気持ちもまとまっていないのが現状だった。