やさしい恋のはじめかた
そして今も、プライベートな話になったとたん、私の周りだけ、わずかに空気が張り詰める。
この二週間、以前と変わりなく接してくれていた大海だけど、さすがに今の私の気持ちがどの程度までまとまってきているか、輪郭だけでも知りたいのかもしれない。
「さっき声をかけたときもそうだったけど、そんなに構えなくていいって。告白したときと違って、今回はいくらでも待つって決めてるから。里歩子はゆっくり考えてくれていい」
けれど大海は、そう言って、ふっと笑う。
その拍子にコーヒーの紙コップから立つ湯気が小さく揺れて、すぐにまた真っすぐに立ちのぼりはじめる。
「直後に異動の話もあったし、まずはそっちを優先して考えないといけなかっただろ」
「……うん」
「俺が聞きたいのは、美容師の彼とあれから会ったり話をしたりしたのかってことだよ。それから、彼や俺に関係なく髪を伸ばしてほしいって直接言いたかったから。短い髪も似合うけど、里歩子は長いほうがいい。せっかく綺麗なものを持ってるんだから、伸ばしてくれたら嬉しい」
「うん。ありがとう。私もそれだけは真っ先に決めたの。だから彼には会ってないし、今のところ会う予定もないよ。連絡も取り合ってない。でもそれは、前からずっとそうだったの。私が勝手に店に押しかける形で髪を切ってもらってたから」
「そう」
大海の骨ばった指が、紙コップを包む。