やさしい恋のはじめかた
若干ぎこちなさげにも見えるその動作は、私に触れるときもいつもそうだった。
今思えばそれは、いつまた私に危うい兆候が出はじめるかわからない気持ちの表れだったんだと思う。
あのとき大海は『最近は仕事に逃げてばかりだった』と言っていたけど、きっとそうじゃない。
頻繁に髪を切りすぎる私をどうしても抱けなかったから……。
それを言うと私が傷つくかもしれないから、全部自分のせいにして、そうやってまた私を守ってくれたんだ。
「彼、気になってるんじゃない?」
その言葉とともに指先から目を上げると、大海はいつの間にか窓の外を眺めていた。
私もなんとなく同じようにそちらに目をやると、ちょうど高いビルがひしめき合うようにして立つ茜色の空の中をカラスが悠々と翼を広げて飛んでいく姿が目に映る。
「気になってるとは……思う。髪を伸ばすって決めたことくらいは言っておいたほうがいいんじゃないかとも考えた。大海の前でこんなことを言うのはすごく失礼だけど、安心させてあげたくて」
「じゃあ、言ったらいいよ」
「でも、今はそのときじゃない気がする。もっと自分に自信がついてからじゃないと……。まだ混乱してるのもあるけど、気持ちをはっきりさせないことには、闇雲には会っちゃいけないと思う。……だって二週間ぽっちじゃ無理だよ。気持ちの整理なんて、まだ……」
「じゃあ逆に、いつだったら会いに行ける?」
「え?」