ずっと好きだったんだよ
そして、短大2年の冬――…


私は櫂に別れを告げる事にした。


「ごめんなさい」


もう、それしか言えなかった。


「奈緒、謝らなくていいよ。奈緒が俺と付き合っている時も、悠也の事をずっと忘れられないでいた事、わかっていたから」


櫂、気付いていたの?

それなのに、私、ずっと櫂の事を傷付けていたんだ……


「本当にごめんなさい……」


私は溢れ出しそうな涙をこらえる。

だって、辛いのは櫂。

そして、酷い事をしたのは私。

私はずっと櫂の事を傷付けていたんだから……

だから、私が泣いちゃダメなんだ。


「奈緒……。最後のお願い」

「何?」


私は櫂の顔を見つめる。


「……最後に、キス、させて」


私が頷くと、櫂は私の唇に自分の唇を重ねた。

今まで、何度も櫂とキスをした。

その中でも、一番……

櫂の優しさに包まれているような温かいキスだった。


櫂は私から離れ


「じゃぁ、仕事頑張れよ。ってその前に、ちゃんと卒業しろよ」


ははっ、と笑って櫂は私の前から去って行った。


櫂……

今まで、たくさん傷付けてごめんなさい。

櫂の事を好きになるって決めたのに……

悠也の事、忘れるって決めたのに……

出来なくて、ごめんなさい。

そして……

今まで私の心の中の気持ちに気付かないフリをしてくれて、ありがとう。

温かい愛情をいつもありがとう。


でも……

櫂の事、“先輩”としてじゃなくて“男の人”として、好きだったよ――…


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