私を本気にさせないで
今だってこんな可愛い顔をして笑っているけれど、以前給湯室がオフィスから死角になっているのをいいことに、わざと耳元で怪しく笑いながら囁かれたんだ。

「もういい加減、俺に本気になってくれましたか?」って――。

あの時は本当、心臓が飛び跳ねた。

不意打ちということもあって、自分でも驚くほどドキドキさせられてしまった。

だからもう私の中で大森君は、ただの同じ部署の後輩という存在ではなくなってきている。

ちょっとだけ。……本当にちょっとだけ気になる存在になりつつあるんだ。



「バカね、そんな子供みたいな理由並べていないで、さっさと認めちゃえばいいじゃない。好きだって」

「だから好きじゃないって言っているじゃない!」

仕事帰り、会社近くの飲み屋に一緒に来ていたのは、同期入社で商品開発部に配属された向島弥生(むこうじま やよい)
< 32 / 125 >

この作品をシェア

pagetop