私を本気にさせないで

「それが嫌なら、私のようにさっさとモノにして結婚でもしちゃいなさい」

無茶苦茶なことを言われているというのに、妙に説得力があるのは彼女が既婚者だからかもしれない。

「すみませーん！カシスオレンジ追加で」

メニュー表片手に通りかかった店員に注文する彼女の左手薬指には、光り輝く指輪がはめられている。
私くらいの年齢の同性からしてみれば、羨ましい限りだ。

だって結婚もしてバリバリ仕事もこなしているのだから。
女の幸せをふたつ手にしている彼女が羨ましくて仕方ない時もある。

「私は弥生とは違うから」

「はいはい、そうですね」

苦し紛れに言い訳するも適当にあしらわれてしまう始末。