私を本気にさせないで
弥生は入社して間もない頃、営業部の二つ上の先輩に一目惚れ。
それから人伝いに彼との接点を持ち、半年かけて彼をゲット。そして交際一年目に入籍したのだ。

誰もが驚いた。
同期の中では一番早い結婚だったし。
しかも相手は時期エースと言われていた営業部のホープ。
爽やかな印象を与える好青年だ。

できちゃった結婚ではないし、弥生は今も開発部でバリバリ働いている。

「いい加減さ、あんな奴のことなんて忘れたら?」

運ばれてきたカシスオレンジを飲みながら、チビチビとつまみに箸を伸ばしていた私に、呆れたように言ってきた。

大抵恋愛の話になると、弥生は決まってさっきの台詞を言ってくる。
すると私も決まって同じ言葉を返すんだ。

「別にあの人のことを今でも引きずっているわけじゃないから」って。
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