放課後コイ綴り
紙の上でかじかんだ指が何度も端を滑る。
やっとのことでページをめくると、ぱらりと本が乾いた音をたてた。
そっと忍ぶように息を吐く。
すると、部室として借りている、使われない地学教室の中だというのにわずかに空気が白く染まる。
ここで過ごす、3度目の冬。
慣れたものとはいえ、ここの暖房が効くまで時間がかかるの、どうにかならないものかなぁ。
寒すぎるもん、風邪引いちゃうよ。
本を持ちながら、指先を丸めて首をすくめる。
そして気づかれないようにそっと、視線を右にやる。
通路を挟んだ隣。
そこに腰かけて原稿に向かっているのは、一条くん。
細くて長くて、綺麗だけど男らしい手が黙々と言葉を生み出している。
左利きの彼は右手で頬杖をついていて、左側にいるわたしからはこっそり覗きやすい位置。
気づかれていないのをいいことに、編みこみを入れた背中まであるハーフアップの髪に隠れるようにして、もう1度目をやる。
今度は瞬きほどの時間よりずっと長く。