放課後コイ綴り
「わたしはね、地元のI大だから実家暮らしのつもりなの」
えへへと笑う。
紙を無意味にぺらりぺらりとめくっては戻す。
「女のひとり暮らしは心配だし、いいと思う」
「うん。
お父さんにも同じこと言われちゃったよ」
「ああ、相原なんて特に心配になるからな」
「えっ、それってどういう意味?」
首を傾げれば、曖昧な表情で誤魔化された。
絶対いい意味じゃなかったんだ。
いつも通り……ううん、それ以上に優しく明るい空気の中。
コピー機が枚数分の印刷を終えて、止まる。
「頑張れよ」
そう言って、一条くんがわたしに印刷済みの紙の束を渡した。
「……うん。一条くんもね」
新しい紙を設置して、またコピー機が動き始める。
わたしは受け取った分をとんとん、と机で綺麗に整える。
そっと、そこに印刷されていた彼のペンネームを指先でなぞる。
カナ。
カナメ。
────一条 要。
世界で1番美しい響きを持つ名前。
印刷したばかりのそれは、わたしの指先でわずかに滲んだ。
自然と眉が中央に寄り、うつむいて彼から逸らした顔が醜く歪む。
涙と痛みをこらえるように唇を噛み締める。
今まで以上に、強く思う。
わたし、卒業したくない。
────一条くんから、離れたくないよ。