放課後コイ綴り
「相原は寒がりなんだから、気をつけろ」
「う、うん」
「……風邪、引くなよ」
その瞬間、彼の口元がわずかに緩む。
困ったように、恥ずかしそうに、気難しそうに。
その全てを兼ね備えた表情をしていて。
めったに笑わない一条くんの笑顔に心臓が痛いほど、どくどくと鼓動が響く。
それが、とても心地いい。
君のそういうところ、好きだなぁ。
表情は変わらなくたってこわいわけじゃなく、人をよく見ていてくれる。
わたしが焦ってミスしたって文句も言わず、ばかになんてしないでフォローしてくれる。
そんな君が、わたしは大好き。
……大好きだった。
カイロのぬくもりに、目元があつくなる。
胸が切なく軋む。
わたし、相原 ふみ(あいはら ふみ)。
彼、一条 要(いちじょう かなめ)。
北冠高校のふたりきりの文芸部。
わたしたちは最後の部員。
卒業まで、残された時間はあと3ヶ月。