放課後コイ綴り
そっと震える唇を部誌に寄せる。
乾いた感触に声を噛み殺した。
これはわたしの、わたしたちだけの恋文。
こんなにも言葉を慈しむような恋はない。
これ以上の恋なんて、ない。
わたしの〝好き〟と一条くんの〝俺も〟が積み重なって、部室に残される。
とても優しい言葉たちがここにあった。
わたしたちがここで過ごした日々は戻ってこないし、一条くんと恋人になることはなかった。
だけど確かに、この恋文の上でわたしたちはひとつだった。
失うばかりだと思っていたけど、得たものもあったんだね。
なににも替えられない告白の中心で、わたしは涙を拭う。
そして誰よりも幸せそうに笑った。
「一条くんが、大好きでした」
放課後、4階の片隅。
文芸部の部室の、通路を挟んだ隣で。
あなたとコイを綴った日々は、言葉は、わたしたちの胸の中できらめいている。
ほら、きらきらと儚く。
これからもずっと〝すき〟と囁いている。
fin.