放課後コイ綴り
思えばあの頃のわたしは幼く、愚かで、ひたむきだった。
大人になればなるほど恥ずかしくなって、そしてそのまぶしさに目を細めて、だけどどこまでも愛おしい。
そんな恋だった。
放課後、4階の片隅。
文芸部の部室の、通路を挟んだ隣。
ほんの少しほこりの混ざった空気が、きらきらと窓から射しこむ光を吸いこんでいた。
あそこで過ごした日々は、今でも私の胸の真ん中にある。
そんな思い出には、もちろん目の前にいる彩先輩との記憶もたくさんある。
シロップのように甘いスキンシップに、無条件に向けられた安心できる笑顔。
わたしのペンネームは彩先輩に決めてもらったことも懐かしい。
彩先輩が卒業してからはわたしが受験生になったこと、そして文芸部をわたしの代でつぶしてしまう罪悪感からわずかに距離ができた。
だけどそんな時期でも定期的に会っていて、関係は今でも続いているんだ。
今回は半年ほど間が空いていたから、少し久しぶり。
季節は秋から春へと変わった。
彩先輩を追うように席に来ていた店員に注文を済ませ、彼女はそういえば、と言葉を落とす。
「前に話していた作品、発売決まったよ」
にこにこと嬉しそうな彼女に向かって、わたしも自然と頬が緩み、知ってますと笑った。