放課後コイ綴り




著者は、奏(そう)先生。

わたしも持っている作品で、静かに綴られる、とある町のなんてことない日常の物語。

ドラマチックな出来事は一切なく、淡々としている。



それなのにどこか、泣きたくなるような、優しい話。

わずかに散りばめられた、恋の話だった。



そんな作品の内容を思い返しながら、えんじ色のブックカバーで表紙を覆っていく。



中身がなにかわからないように、すべてが同じに見えるように包みこむ。

それはまるで、恋心を隠すように丁寧に。



余計な線が1本も入っていない、ブックカバーがぴしっと吸いついた文庫を袋に入れた。



「お先にお品物失礼いたします」



丁寧に本を手渡して、会計を進める。

本を扱っていたさっきまでとは違い、てきぱきと心をこめることなく処理を済ませた。



おつりを返し、ありがとうございますと告げればレジの前に並んでいた列がなくなった。

つかの間の休息に息を吐き出す。



「ちょっと落ち着きましたね〜」

「そうですね」






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