放課後コイ綴り
お客さまがいないことをいいことにぐっと背筋を伸ばす。
隣に立つアルバイトの田中さんとぽつぽつと言葉を交わしつつ、心地いい疲労感を覚えた。
たわいもない話に花を咲かせていると、ふいにレジに顔を出した店長がわたしの隣の彼女に声をかける。
どうやらもうすぐはじまる新学期の時間割によるシフト変更についてらしい。
しばらく話したあと、店長はわたしに視線をすべらせる。
「相原さんごめん、ちょっと田中さん借りて行くね。レジひとりでも大丈夫かな」
「あっはい」
「じゃあよろしく」
田中さんはわたしがシフト入るの減りそうって言ったら怒りますか〜? とふわふわとした声を出し、背を向けるふたりを見送った。
ひとりになったレジでわたしが考えることはひとつ。
さっきの文庫本のことだ。
奏先生がデビューしたのは、わたしが大学生の頃。
1冊1冊の間隔は長いけれど、確実に書籍を出している。
優しくて苦い、そして泣きそうになる。
わたしが知るものと作風は違うはずなのに、そんなふうに心に触れられるような作者にここ数年で何度も出会った。
そうしてわたしは思ってしまったんだ。
まさか、もしかして、って。
一条くんじゃないかな、って。