放課後コイ綴り
奏という著者名は、一条くんが活動している名前とは違う。
彼は高校生の時から純文学ばかりを描いていたし、彩先輩から聞く近況の内容でもそう。
知っているのに、それでもどうしてか一条くんのような気がしてしまうんだ。
それは頭じゃなくて、心が。
彼を求め、気づき、叫んでいる。
だけどそれは想像の域を出ない。
ひとりでそっと考えて、ばかみたいに必死に、言葉をかき集めているだけ。
真相を知る勇気は、わたしにはない。
「すみません、本の予約お願いしたいんですけどいいですか?」
考えごとをしていたわたしの目の前でひとりの女性がそう言った。
「はい、タイトルおうかがいいたします」
はっとしたあと誤魔化すようににっこりと微笑んで、予約用紙を取り出す。
差し出されたスマホに映る著者名が彩先輩で、胸にじんわりとぬくもりを感じた。
わたしは一条くんに会いたいと思う。
彼の言葉にまた、包まれたいと。
でもそれはできないと知っているから。
彼のかすかに残る影に指を伸ばし、掌を握り締めて。
遠く繋がるこの場所で一条くんを想うの。