放課後コイ綴り
金曜日の朝。今日は新刊が入る日。
ほぼ毎日のようになにかしら届くけれど、今日は特に大量の書籍が店に届いた。
コミックは盗難防止のバーコードを挟みシュリンクをかけて、雑誌には付録をつける。
文庫だってものによってはシュリンクが必要なんだ。
書店は朝ほど忙しい時間帯がないもの。
誰もがせわしなく手を動かしていた。
文庫担当のわたしは、今日入荷した文庫を確認する。
店頭に出せるものから台車に乗せて、手の空いている人が並べることになっているから、少しでも用意しておかなくちゃいけない。
新しい紙の、どこか鼻につく、だけど不快感を与えない香りを感じる。
反射のように深く息を吸いこんだ。
書籍という鋭い紙が束になっているものに触れながら、指先が切れないようにしつつも手早く仕分けをしていた。
なのにその途中で、わたしはふいに手を止めてしまう。
指先をうろうろと迷わせて、それから音がしないほどそっと、とある表紙にこつりと爪の先をぶつけた。
写真を加工したのか、それともイラストなのか、専門外なことでわたしにはよくわからないけれど、淡い水彩画のようなそれ。
描かれているのは、高校の教室。
……ううん、わたしたちが大切な3年間を過ごした北冠高校の地学教室で。
文芸部の、部室だった。