放課後コイ綴り
黒板の位置にチョークを意識したフォントでタイトルが刻まれている。
指の腹でそれをするりとなぞる。
1文字ずつ、わたしの手の下からのぞく文字に本当に書籍になったんだと実感がわいてきた。
異世界を舞台にすることが多い彩先輩の作品。
デビュー作以来の現代を舞台にした、しかも恋愛ものだと、発売前からひそかに話題になっていたんだ。
こんなふうに憧れの先輩が作家としてやっていっていること、わたしの物語が世の中に出て行くこと。
言葉にしがたい感情が胸の奥で息をしている。
本当なら今すぐにでも読みたい。
仕事なんて放り出して、手に取りたい。
だけど、学生の頃みたいに休憩時間が終わってもほんの数分だけ粘ったり、自習の時にさっさと課題を終わらせて読書の時間にしたり。
そんなことはもうできない。
だってわたし、もういい大人だから。
それになぜか、彩先輩に買わないで、と止められている。
理由はよく知らない。
カフェでお茶をした時に「そのうち届けられるから!」とは言われたけど、曖昧な言葉に、あわない視線。
なにかを誤魔化していることはわかるけど、その内容は想像の域を出ない。
いつも彩先輩は新刊が出たら、ありがたいことにわたしに見本誌をくれる。
だけど、わたしも必ず購入しているのは彼女も知っているのに、どうして今回だけはいやがっていたのかな。