放課後コイ綴り
うそを吐けないたちの彩先輩。
眉間にしわを寄せて、困ったように眉を下げて、うんうんとうなって。
言葉を探して、見つからなくて、場を保たせるために何度もグラスを口元に運んでいた。
その姿がまぶたの裏に浮かぶよう。
はっきりと違和感を感じているのにどうすることもできず、わたしはこくりと頷いて了承するしかなかった。
いったいいつ頃、わたしは新作を受け取ることができるのかな。
できるだけはやく、言葉を呑みこんでしまいたい。
きっとその時、わたしは一条くんのことを思い出す。
そしてわたしはどんな感情を抱くのか、どこか恐ろしいけど知りたいと、思う。
もう何年も会っていないのに、彼の話をすることさえほとんどないのに、それでもいまだに彼を想うこの心。
それは本当に恋なのかな。
ただの執着じゃないと証明するものは、どこかにないのかな。
できることなら、彩先輩の世界にあればいい。
そんなことを考えていたわたしに、ふいに声が落とされる。
「相原さん、ここの文庫運んで大丈夫ですか?」
「あっ、はい!」
いけない、ぼんやりとしている余裕なんて、今のわたしにはないんだった。
慌てて返事を返す。
手にしていた彩先輩の新刊も台車の上に積み、運んでくれるよう頼む。
今はただ、たくさんの人にこの作品が届くことを、自分が手に取る日がはやくくることを祈るだけ。