放課後コイ綴り
「おはようございます」
レジの前を通りかかり、中の人にあいさつをする。
時間帯に関係なく、店に入る時の言葉が共通されていることに不慣れだった頃は、もうずいぶんと昔のこと。
いつもと同じようにぺこりと頭を下げて、裏の控室に足を向けた。
だけどそこで、普段とは違うことが起きた。
「あっ、相原さ〜ん」
田中さんにちょっとすみません、と呼び止められ、立ち止まる。
首を傾げつつ、レジにお客さまがいないことをいいことに、手招きされるまま近寄る。
「相原さんに渡してほしいって、お客さんから預かっているものがあるんです〜」
「え?」
お客さまから店員に、なんてそんなこと今まで1度も聞いたことがない。
誰かの落としものを拾ったと渡してくれる方ならたまにいたけど、前例のないことに戸惑うばかり。
ただ何度かまばたきを繰り返した。
「変なものだったら預かるかどうかも悩むんですけど、絶対大丈夫だって思ったので〜」
「そう、なの?」
「はい」
応えてくれたのか、どうぞとでもいう代わりなのか、返事と共ににっこり笑った田中さんが差し出したものを反射的に受け取った。