放課後コイ綴り




えんじ色のビニール袋に、紙のブックカバー。

手に馴染むほど何度も触れたその包みは、うちの書店のものだ。



書店名の刻まれたテープを外し、中から文庫本を取り出す。

ぺらりと気楽に表紙をめくり、わたしは小さく息を呑む。

それは、『放課後コイ綴り』だった。



そのうち届けられると彩先輩が言っていたことを思い出して、心臓がどくりと鼓動を刻む。

きっと彩先輩が持って来てくれるのだとばかり思っていたけど、でも、それは違ったんじゃない?

わたしは大きな思い違いをしていて、知らない事実がたくさんあるんじゃないかな……?



「購入したお品物をそのまま渡されちゃいました〜」



そう言ってへらりと笑う彼女の顔をまじまじと見つめる。

唇を薄く開く。

だけど言葉は、見つからない。



わたしのそんな普段とは違う様子に気づくことなく、田中さんは興味津々といった雰囲気のままわたしに問いかける。



「クール系の黒髪イケメンでしたよ〜!
もしや相原さんの彼氏さんですか?」



彼女のわくわくと輝く瞳に映っていたであろう彼の姿を思い浮かべて、くらりと目眩がするよう。

何年も見ていないあの背中が、横顔が、まぶたの裏で霞んでいく。



その人は、ここまで本を届けに来てくれた彼は。

わたしの予想が外れていなければ、きっと、きっと────。






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