放課後コイ綴り




新しい紙の香りが鼻先をすり抜ける。

指先でめくるページが視界の端でちらちらと揺れて、その真白さが眩しい。

だけどそれに対して完全に意識が向くことはない。



頭の中を埋め尽くすのは、彩先輩の言葉。

涙みたいにしょっぱい、あの頃のわたしたちの物語。

ようやく手にすることができた本の文字を、視線で必死に追いかけるようになぞる。



さみしいほどに幸せだった高校生時代。

文芸部の冷暖房の効きが悪い部室が懐かしい。



1日働いて、バイトとパートさんを帰して、細々とした事務作業を終わらせてようやく社員も帰宅。

悩んだけど、帰りの電車では泣いてしまったら困るからと取り出すことはやめていた。

だから今、ひとり暮らしの自分の部屋に入ってすぐ、ようやく読むことができる彩先輩の新刊をわたしは貪るように読んでいたんだ。



それも最後の一文字が終わったところで、深く息を吐き出す。

自然と息をつめていた私の肺に冷たい空気が入りこみ、気分が高揚して熱い身体に染み渡るよう。



読み終わった上での感想は、うまく言葉にできそうにない。

やっと読めたと思うと同時に、久しぶりに一条くんに会えたようで、だけど違って……。

恋しい。そして苦しい。

わたしがあんなにも幸せそうだったことが、眩しくて直視できない。






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