放課後コイ綴り
「あのね、あのね一条くん、」
腕を動かせば触れてしまいそうなくらい距離をつめた彼が、人差し指をわたしの唇に押し当てる。
ぬくもりを感じる。
長いまつげが下を向いて、伏せられた瞳に言葉を吸いこまれた。
「あいはらがすき」
『放課後コイ綴り』の目次に隠されていた言葉をなぞるように、彼の生きた言葉が薄い唇からこぼれる。
「付き合って、ください」
一条くんはまるで18歳の男の子のようにためらいがちにそう言って、はじめて見るはにかんだ笑みを浮かべた。
そうしてわたしに向かって両手を差し出した。
わたしが言おうと思っていたのに、先を越されてしまった。
悔しいな、なんて思いながら、胸がふんわりとあたたかい。甘い。
今ならどこまでだって行ける、なんだってできる。
根拠もなくそう考えて、ただ彼が好きだと思った。
ああ、今日のことを彩先輩に話したなら、また『放課後コイ綴り』のように小説の中で使われてしまうんだろう。
なんと言って応えたのか、彼女のファンに知られてしまうことは恥ずかしいけど、幸せのおすそ分けだと思えば悪くないね。
ねぇ、君も、そう思うでしょう?
にじむ視界を瞬きで明瞭にして、わたしのためだけに伸ばされた手に、そっと自分のそれを重ねた。
わたしは、頰をとろけさせるように笑った。
fin.