たとえば呼吸するみたいに
*
「ヒメー!」
今と変わらない、その呼ばれ方であたしのことを呼ぶ人。
だけど、違う。
まだ幼く、舌ったらずなその声は今よりずっと甘い。
確かまだあたしと玲が6歳で、小学校に上がる前。
その頃から玲はツンケンした面を持っていたけど、それでも今よりずっと素直で可愛かった。
あたしには特に笑顔ばかり見せてくれていたし。
そんな彼のことをあたしは今とは違う呼び方をしていた。
「れーくん!」
ひらひら、ふわふわ。
女の子らしいピンクのワンピースに、一人称はヒメ。
そう、あたしは昔は乙女チックな思考を持つオンナノコだったんだ。
今となっては影も形もないけどね。
長い髪だってきちんと手入れをして、いつも可愛い格好をしていた。
あの頃のあたしは自分で言うのもなんだけど、今よりずっと名前に見合った姿をしていた。
バカなことはしていたけど、ちゃんと可愛くあろうとしてただけよかったよね。
そんなあたしでも釣り合わないくらい、その頃から玲はカッコよくてモテてたけど!