たとえば呼吸するみたいに
結婚の約束を交わしてから、随分と時は流れた。
玲は、ちゃんと覚えているのかな。
だってもう、あたしたちは365日を繰り返す日々を10回以上。
あたしたちが共に過ごしてきた時間の半分以上なんだもん。
それがどれだけ愛おしく大切で、貴重なことかなんて多くの人がわかっちゃいない!
あたしたちにとって、その時間はとても長くて重たいものだから、あの約束はなかったことになってやしないかと心配になる。
だけどきっと、玲は忘れたりなんてしない。
不安になりながらも、ずっと心に留めてくれていると信じられるんだ。
それが、よりあたしを切なくさせるんけどね。
忘れて欲しい。忘れないで欲しい。
対極で、どちらか一方しか叶わないあたしの願い。
玲はどっちを叶えてくれるんだろう。
「……ねぇ、玲」
「なに」
「姫那ちゃんと付き合うの?」
空気がわずかに変わる。
びりびりと痺れてしまいそうで、怖くて。
重たくなったそれに、呼吸ひとつさえ苦しくなった。