たとえば呼吸するみたいに




「あのなぁ!」



気配が近づく。

苛立った声があたしの肩をびくりとさせる。



頭をいつもより乱暴に、だけど懸命に堪えた力具合で叩かれた。



「いった!」



かなりの痛みを感じる。

でもあたしの方が悪いってわかってるから、文句も言えない。



「……嫌いになるわけないだろ」

「っ、」



うん、と掠れた声で囁く。

この距離じゃなかったらわからないような、そんな小さな声で。



「うん……ごめん」



そうだよね。

ずっと一緒にいたんだもん。



これくらい、って言うにはなかなかひどいことをしたけど、それでも玲はあたしを嫌ったりしない。

嫌いになれるはずがないのに、失礼なこと言っちゃってごめんね。



反省していると、彼の息を吐き出す音が聞こえる。

仕方がないな、と玲はきっと片眉を上げているんだろう。



まだ潤んでいる瞳を彼に向けることはできないから背を向けたまま。

玲の視線が突き刺さり、じりじりと熱を持っている。






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