たとえば呼吸するみたいに
「俺は気なんて回らないからな。
お前の気持ちも、言ってくれないとわからない」
そう、玲はさっきあたしの頭を叩いた手で、今度は髪を撫でた。
丁寧じゃないのにどこか優しくて、かき混ぜるような手つき。
大好きな、その手。
あたしの気持ちなんて、わかってるくせに。
なのに「言って」と玲は言うんだ。
あーあ。
ほんと玲ってば、ずるいよ。
玲は、ウソ吐きだ。
そんでもってあたしも、……ウソ吐きだ。
だってあたし、終わらせたくないんだよ。
だからあたしは言えないんだよ。
「……なんもないよーっ。
変なこと言ってごめんね!」
明るい声を出して、寝返りを打つ。
「……そうか」
「うん!」
立ったままの彼を見上げる。
反対に見下ろす彼の前髪がさらりと落ちていて、手を伸ばして耳にかけてあげた。
掌はこんなにも近く、触れ合うことができる。
なのに、顔は思ったより遠くて。
あたしには玲の表情がよく見えなかった。
悔しいほどに、見えなかった。