たとえば呼吸するみたいに




「俺は気なんて回らないからな。
お前の気持ちも、言ってくれないとわからない」



そう、玲はさっきあたしの頭を叩いた手で、今度は髪を撫でた。

丁寧じゃないのにどこか優しくて、かき混ぜるような手つき。

大好きな、その手。



あたしの気持ちなんて、わかってるくせに。

なのに「言って」と玲は言うんだ。



あーあ。

ほんと玲ってば、ずるいよ。



玲は、ウソ吐きだ。

そんでもってあたしも、……ウソ吐きだ。



だってあたし、終わらせたくないんだよ。

だからあたしは言えないんだよ。



「……なんもないよーっ。
変なこと言ってごめんね!」



明るい声を出して、寝返りを打つ。



「……そうか」

「うん!」



立ったままの彼を見上げる。

反対に見下ろす彼の前髪がさらりと落ちていて、手を伸ばして耳にかけてあげた。



掌はこんなにも近く、触れ合うことができる。

なのに、顔は思ったより遠くて。



あたしには玲の表情がよく見えなかった。

悔しいほどに、見えなかった。






< 23 / 52 >

この作品をシェア

pagetop