たとえば呼吸するみたいに




そのままふたりがトイレから出て行って、あたしはようやく個室から顔を出す。

ゆらり、亡霊のように揺れながら、鏡に映るあたしの顔は色をなくしている。



「どう、しよ……」



どうしよう。

どうしようどうしよう、どうしたらいい。



このままじゃ、姫那ちゃんは玲に好きって言っちゃう。

姫那ちゃんに玲を取られちゃう……!



やだよ、玲。

そばにいて。

一生、そばにいてくれないと、やだよ!



水で洗った手を濡れたままに、その場を駆け出す。

廊下にいる人たちを避けて、自分の教室まで走って。



そして、



「玲────!」



廊下で待っていた玲に飛びつく。



「うわっ」



珍しく慌てている反応の玲。

抱きとめてくれた彼の手があたしの背に回る。



「おいバカ。危ないだろ」



あっという間に手は離されて、いつもの距離感。

冷たい反応もいつもと変わらない。



「うう、ごめん……」

「ったく、気をつけろ」






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