たとえば呼吸するみたいに




「壁紙は変わってないんだな」



面倒だからと変えていなかった壁紙は、まだ玲が普通にあたしの部屋に遊びに来ていた頃の唯一の名残だ。



白地に小花模様。

可愛いものが大好きだった昔のあたしらしいデザイン。



それを見つけて、玲が柔らかい目をする。

そりゃもう、学校でのことはなかったかのように。



……ううん、やっぱりどこかいつもとは違うね。

どうしてそんなに優しそうな雰囲気を纏っているの?



いつものあたし以外には伝わらないような優しさじゃなくて、今の玲は誰が見てもわかるくらい優しい。

それは、誰かが恋をしたっておかしくないくらい。



それがどうしようもなく悲しくて、玲が部屋に突然訪れた驚きから止まっていた涙がまた溢れてくる。



「なんで泣いてんだよ」



部屋を見回していた玲があたしの隣に腰かけて、涙をすくってくれる。

だけど、それでも追いつかないほど雫は落ちていく。



彼がまだ隣にいる安心感と、姫那ちゃんへの返事を聞いてない不安から胸が張り裂けてしまいそう。

息が、できない。






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