たとえば呼吸するみたいに




「俺とお前の〝好き〟は違う」



うん、そうだよね。

わかってたけど、それでもあたしはそんな現実に抵抗したくて、ずっと間違えてたんだ。



「だから、俺に恋をしているふりなんてしなくてよかったんだ」

「……え?」

「俺たちの〝好き〟の意味は、同じになる必要なんてなかったんだ」



あたしは玲のそばにいたくて。

重ねられた手を失いたくなくて。

ずっとずっと変わらない距離が欲しくて。

そのためには恋情が、交際が、結婚が、必要だと思っていた。



だから何度も好きって言った。

周りの人や自分に言い聞かせるように。



だけどそれ全部、いらなかったんだね。



「結局無理だったけど、それでもお前は俺のことを好きになろうとしてくれた。
俺のことを考えて、どうにかしようとしてくれた。それだけでもう、十分だ」



やめて。

だめだよ、口元なんて緩めないで。



手を触れ合わせたまま、肩を並べて、腕を引けば唇だって重ねられそうなほど近い距離で。

悲しそうなのに嬉しそうな表情なんて見らんないよ。



玲はわかってない。



玲と呼べる、多くを許されることが誇らしく、どれほど嬉しかったか。

どれだけ、手放したくなかったか。



ただあたしが、ずるくてわがままだったんだ。






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