たとえば呼吸するみたいに
「お前が俺を好きになろうとしてくれたこと、嬉しかった。
嬉しかったけど、でもやっぱり違ったんだ」
「っ、……ぅ」
「無理に変わろうとしなくていい。
自然と変わることを止めなくていい」
あたしはずっと、玲に想われていることが悲しかった。
ただの幼馴染が、特別な幼馴染が、あたしにとって欲しいものだったから。
それでも大好きな玲に好意を抱いてもらえたことが誇らしくて、幸せで、自慢したくなるくらいで、嬉しくて、……嬉しくて。
形は違ったけど、あたしたち、お互いの1番だったんだ。
確かに今この瞬間、想い合っている。
「ヒメ、……ヒメ」
あたしの愛称が空中に落とされる。
甘い響き、愛おしい響き。
滅多に呼ばないけど、それでも1番あたしの名前を大切にしてくれているのは、きっと玲だ。
「れ、い……」
「もう泣くことなんてないんだ」
「ぅ、……」
「俺は王子になんてなれないし、お前は姫にならなくっていい。
騎士や兄弟を望むことも必要ない」
「っ……、」
「お前はただの俺の隣の家に住む幼馴染。
内藤 咲姫だよ」