たとえば呼吸するみたいに




しばらくあたしが振る話題に相槌を打ったり、容赦なく毒舌なツッコミを入れていた玲が「あ」と声を漏らす。

なに? と首を傾げると、彼はあたしにちらりと目をやる。



「そういえばお前、体操着持って来てないよな?」

「え?」

「今日、3・4組合同体育だぞ」

「うわ」



あーあ、すっかり忘れてたよ。

今日は4組の玲と同じ授業を受けられる唯一の機会、体育の日だったのに。



やらかしたぁ、と頭を抱える。



「うう、玲ー!体操服貸してー!」

「俺も同じ時間に体育受けてるんだよバカ」



そうでした。



「大体お前、俺の体操服着ても動けねぇだろ」

「どういうこと?」

「お前にはでかすぎて脱げる」



ひ、否定できない……!

できないけど小さく今「改めて考えてもちっちゃ」とか言った? 言いました?



くっそー、バカにしてきて!



うーん、でも忘れちゃったものは仕方がないよね。

今日は他クラスの友だちにでも貸してもらおう。



「うん、よし! なんとかなる!」



よかったよかった。

安堵の吐息が零れる。



「ヒメは本当、勢いで生きてるな」



呆れたように玲は息を吐き出してあたしから目をそらし、またさっきのように前を向く。






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