たとえば呼吸するみたいに
まったく、玲ってば嫌味な言い方してきて!
しかも、滅多にあたしのことを「お前」以外で呼ばないくせに!
似合わないからやめて欲しいって何度も言ってるのに、玲は昔からずっとあたしのことをヒメと呼ぶ。
玲にはそういう意地悪な面もあるんだよね。
だからといって嫌いになれるはずもなく、大好きなことに変わりはないんだけど。
口の達者な玲相手になんとか一言くらいうまい返しはないものか、と悩むあたしがいい言葉を思いつく前に「大庭くん」と彼の名前を呼ぶ声。
鈴の音のように軽やかで、耳に優しいこの声の持ち主は……
「おはよう」
お姫様みたいにとびきり可愛い、玲と同じクラスの宮岸 姫那(みやぎし ひめな)ちゃん。
「……はよ」
「咲姫ちゃんも、おはよう!」
ふわふわの黒髪ロングの姫那ちゃんは可愛いだけじゃなく、誰にでも優しくて、あたしにもいつも声をかけてくれる。
あたしが玲にヒメと呼ばれたくない理由のひとつでもあるんだけどね。
だって、こんなに身近に〝ヒメ〟が似合う子がいるんだよ⁈
あたしなんかが玲にヒメって呼ばれるとかおこがましいっていうか、いつか殺されそうっていうか。
うう、自分で考えてて切なくなってきた。