オトナな部長に独占されて!?




半分冗談で、半分本気で言ったその言葉に、部長は驚いてからクスリと笑う。


それから人目も気にせずに私の肩を抱き寄せ、耳に息が掛かるほどの近距離で囁いた。



「10年後? 残念ですが抜かせませんよ。その頃の私は、部長ではなく取締役社長です。

小さな檻の中は窮屈なので、起業するつもりです。

もちろん、円香さんも連れて行きます。共同経営者として……」




それだけ言うと部長は私から離れて、営業部のドアから出て行こうとしている。


その凛々しいスーツ姿の背中を見送りながら、今言われたばかりの言葉を頭の中で反芻していた。



起業って……。

私が共同経営者って……。



驚きの未来予想図が頭に形を成した後は、慌てて営業部のドアから飛び出した。


昼時で賑わう廊下の、数メートル先を歩く部長を追いかけ、叫ぶように言った。



「そんな話、初めて聞いたんですけど!
待ってください、葉月部長っ‼︎」



紺色スーツの裾を捕まえると、ワクワク、ドキドキ、胸が踊りだす。


仕事も恋愛も、こんなに楽しいものなんて知らなかった。


ふたりで築く未来もきっと……ゾクゾクするほど刺激的で楽しい日々になりそうな予感がした。




【 完 】



< 130 / 145 >

この作品をシェア

pagetop