オトナな部長に独占されて!?
半分冗談で、半分本気で言ったその言葉に、部長は驚いてからクスリと笑う。
それから人目も気にせずに私の肩を抱き寄せ、耳に息が掛かるほどの近距離で囁いた。
「10年後? 残念ですが抜かせませんよ。その頃の私は、部長ではなく取締役社長です。
小さな檻の中は窮屈なので、起業するつもりです。
もちろん、円香さんも連れて行きます。共同経営者として……」
それだけ言うと部長は私から離れて、営業部のドアから出て行こうとしている。
その凛々しいスーツ姿の背中を見送りながら、今言われたばかりの言葉を頭の中で反芻していた。
起業って……。
私が共同経営者って……。
驚きの未来予想図が頭に形を成した後は、慌てて営業部のドアから飛び出した。
昼時で賑わう廊下の、数メートル先を歩く部長を追いかけ、叫ぶように言った。
「そんな話、初めて聞いたんですけど!
待ってください、葉月部長っ‼︎」
紺色スーツの裾を捕まえると、ワクワク、ドキドキ、胸が踊りだす。
仕事も恋愛も、こんなに楽しいものなんて知らなかった。
ふたりで築く未来もきっと……ゾクゾクするほど刺激的で楽しい日々になりそうな予感がした。
【 完 】