オトナな部長に独占されて!?
「それでは皆さん、お世話になりました〜」
下山の間抜けた声が、営業部フロアのドアの方向から聞こえる。
振り向きもせずに私は怒りと悔しさを、手元の仕事にぶつける。
10時になったら、外回りに出ないと。
今日は三件の顧客とアポイントを取っている。
今日中になんとか、契約までこぎつけたい。
私は忙しい……。
とっても忙しい……。
超絶忙しい……。
下山なんかに、いつまでも気を取られているほど、暇人じゃないんだから!
そうやって自分の心に言い聞かせ、何とか悔しさから抜け出そうとしているのに、下山がいなくなった途端、もう一人のムカつく男の声が聞こえてきてしまった。
「え〜、諸君。私がいなくなることで、さぞ心細かろうと思うが、社の決定だから仕方ないからな。
気を落とさず、契約を取って取って取りまくってこいな。それでは失礼するよ」
声の主が、さっき下山が挨拶していたドア前でダミ声を張り上げてから、営業部を出て行った。
我が営業部から、この10月の移動は二人。
下山と、今、出て行ったオッサン。
今までこの部署を仕切っていた、権藤(ゴンドウ)部長だ。