オトナな部長に独占されて!?
立花萌を放置してベージュのコートを羽織り、仕事鞄を手に持ったところで、
「高村さん」と背後から、バリトンボイスで呼び掛けられた。
「きゃあ、葉月部長!
何のご用ですかぁ?
私、部長のためならなんでもします!」
そう言ったのは、もちろん私ではなく立花萌だ。
葉月部長はいつものイケメンスマイルひとつで彼女を華麗にスルーして、私に向けて言った。
「高村さんは、本日10時15分に鶴亀写真館への営業でしたね。
私も一緒に行きますので」
「へ? 一緒にとは……部長と私のふたりで外回りを?」
「はい。そうですが、何か問題でも?」
「いえ……問題はありませんが……」
問題はないが、『なぜ?』という疑問でいっぱいだ。
契約が取れそうで取れなくて、あともう一押しという場合、係長や課長に一緒に行ってもらうことは今まで数回あった。
でも、部長クラスはない。
まぁ、権藤部長はお客さんに不快感を与えてしまいそうだから、ついて来て欲しいなんて、頼んだことも思ったこともないけど。