オトナな部長に独占されて!?
私が通話を切ってから、葉月部長がゆっくりと振り向く。
そして、私を見て、驚いた顔をした。
きっと今の私は、相当に醜い顔をしているのだろう。
湧き上がる怒りを押さえ込むのに必死で、食いしばる歯が、ギリギリ音を立てていた。
やっぱり、今ここで、母親からの電話に出るんじゃなかった。
せめて自宅に帰ってから今の話を聞いたなら、クッションを殴るなり、お風呂のお湯の中で叫ぶなり、怒りを和らげる手段もあったのに。
怒りと後悔で、今日は色々とお世話になった葉月部長にまで、尖った視線を向けてしまった。
驚いている部長から視線を逸らし、「ふんっ」と鼻を鳴らして、柱の陰から勢いよく一歩を踏み出す。
すると運悪く、改札を出てこっちに向かって歩いてきた、ラガーマン体型の男性にぶつかってしまった。
体重差は恐らく、50kg近くあるだろう。
ドンとぶつかって後ろに弾き飛ばされ……
床に体を打ち付ける覚悟をした私は、ぎゅっと目を瞑った。
ところが、体に感じたのは痛みではなく、誰かにポスッと、背中を受け止められたような感覚。
立ったままで、転んでもいない。
「痛ーな、気をつけろ!」
私がぶつかってしまった若い男性は、怒りながら去っていく。
私は何も言葉が出てこない。
ぶつかったことよりも何よりも、これが一番の衝撃だから。
体に回される長い腕。
背中に感じる筋肉美。
私の顔のすぐ横には、ダークブラウンの髪の毛があって……。
「大丈夫ですか?」
と、バリトンボイスの艶やかな声を、耳元に聞いてしまった。